はじめに
2024年現在、国内の建設業界は大きな転換期を迎えています。職人不足や高齢化、現場の生産性向上ニーズ、さらにサプライチェーンの多国籍化やデジタル化の進展など、経営者が直面する課題は多面的です。このような環境下で建設企業が持続的に成長し、信頼性と信用力を高めるためには、単なる技術力やコスト競争力だけでは不十分です。コンプライアンス(法令遵守)の確立と定着が、企業価値を左右する重要な要素として浮上しています。
近年、公共工事の入札資格要件が厳格化し、談合や不正行為が露見すれば営業停止や顧客離れを招く可能性が高まっています。さらに、労働安全衛生法や下請代金支払遅延等防止法(下請法)、建設業法など、建設業界に特有の法令への対応は喫緊の課題です。中小建設企業にとっても、コンプライアンスポリシー(行動指針)の整備と徹底は、単なる「お題目」にとどまらず、リスク回避やブランド強化、優秀な人材確保にも直結します。
本記事では、中小規模の建設企業がコンプライアンスポリシーを策定し、2024年以降の事業環境においてどう従業員に普及させていくか、その具体的なポイントを解説します。国際化、デジタル化、ESG(環境・社会・ガバナンス)など、最新の潮流も踏まえながら、実効性のある戦略を提示します。
1. コンプライアンス強化の重要性と現状
中小建設企業の現状課題
中小企業庁の調査によれば、多くの中小企業は経営理念を掲げているものの、コンプライアンス・倫理関連の方針を明確に定めていないケースが依然多く存在します。特に建設業界では、下請業者との契約関係や労務管理、安全衛生、環境規制など、法令順守が欠かせない領域が多岐にわたります。コンプライアンス違反は、行政処分、入札資格停止、信用失墜といった重大リスクに直結するため、その影響は中小企業といえど極めて深刻です。
なぜいまコンプライアンスか
公共工事はもとより、民間発注の大型プロジェクトでも、発注者はサプライヤーの信頼性や法令遵守姿勢を重視する傾向があります。コンプライアンスポリシーの策定・運用は、単にリスク低減策であるだけでなく、顧客や金融機関、パートナーからの信頼獲得、ひいては優秀な人材確保、企業価値向上にもつながる「攻めの経営戦略」の一環といえるでしょう。
2. コンプライアンスポリシー策定のポイント
(1) 経営理念との整合性
コンプライアンスポリシーは、単独で存在するものではありません。企業の経営理念やビジョン、ミッションと整合性をもたせることで、従業員が「なぜこのルールが必要なのか」を理解しやすくなります。建設会社であれば「地域社会への貢献」「安全かつ高品質な施工」「持続可能な建設プロセスの追求」といった理念と、コンプライアンスの精神を結びつけることが重要です。
(2) 具体的な行動指針の明示
抽象的なスローガンに終始せず、具体的な行動指針を示しましょう。例えば、「下請業者との契約は適正な手続きと条件で締結する」「廃棄物処理は法定基準に則り、適正ルートで行う」など、現場の日常業務に即した形で表現すると、従業員が実践しやすくなります。
(3) 法令遵守の明確化
建設業法、下請法、労働安全衛生法、環境規制など、関連法令をリストアップし、ポリシーに明確に反映させましょう。コンプライアンスポリシーの策定プロセスでは、法律専門家や業界団体ガイドラインを活用することが有効です。
(4) 定期的な見直しと更新
法改正や社会情勢の変化に合わせて、コンプライアンスポリシーを年1回程度見直すことを習慣化しましょう。2024年には働き方改革関連法の完全施行、建設業界の労働時間上限規制、さらには海外展開企業向けの国際規制対応などが求められます。
3. 従業員への普及・定着のポイント
コンプライアンスポリシーは、作成してファイルにしまっておくだけでは意味がありません。全従業員が「自分事」として捉え、日常業務に反映させるためには、以下の対策が必要です。
(1) 経営トップのコミットメント
経営者自らがコンプライアンスを重視するメッセージを強く発信することで、現場への浸透度が大きく変わります。トップが違反行為を許さず、ポリシーに沿った意思決定を行う姿勢は、全社員に「本気度」を伝えます。
(2) 定期的な研修・教育
年1回以上の研修を実施し、ポリシーの内容や法令改正点、最新の業界動向を説明します。講義形式だけでなく、eラーニングやケーススタディを用いることで、理解定着を図りましょう。事例には談合問題や安全管理不備による事故、海外子会社での贈賄リスクなど、建設業特有のテーマを取り入れると効果的です。
(3) 分かりやすい資料・ハンドブック作成
専門用語が多いと理解が進みません。イラストや図解、Q&A形式で「何を守らなければならないか」を明示します。建設現場の作業員でも直感的に理解できるようなハンドブックや、社内ポータルサイト上の簡易ガイドを整備しましょう。
(4) 具体的な事例の活用
「現場で材料受領サインを偽装するとどうなるか」「公共工事で入札談合した場合の処分例」など、具体的な事例を挙げると、従業員は自分たちの仕事との結びつきを理解しやすくなります。リアリティのあるケーススタディは、意識向上に非常に有効です。
(5) 内部通報制度の整備と運用
コンプライアンス違反を早期に発見・是正するために、内部通報窓口(ホットライン)を設定します。通報者を保護する体制や匿名性確保、適切なフィードバックの仕組みを整えることで、不正やトラブルが水面下で拡大するのを防ぎます。
4. 海外展開への対応
中小建設企業が海外へ進出するケースも増加中です。海外子会社や海外現場が関わる場合、現地の法令や文化、言語への対応が不可欠となります。
(1) 現地法令の理解と組み込み
進出先国・地域の建設関連法や商習慣、環境基準、労働規制を調査し、コンプライアンス指針に反映します。専門家コンサルタントや商工会議所、業界団体を活用し、最新の情報をキャッチアップしましょう。
(2) 文化的差異への配慮
海外では、賄賂やギフト、接待の基準が曖昧になりがちです。現地の文化・習慣を踏まえつつ、贈収賄防止や透明な取引慣行を明示することで、不正リスクを軽減します。
(3) 多言語対応
現地従業員向けに、ポリシーを現地語で配布し、研修も通訳・翻訳を用いて行います。言語面での不備が理解不足や違反の温床となる可能性があります。
(4) グローバル内部通報システム
海外子会社でも使えるグローバルな内部通報体制を構築し、不正・不当行為を早期に把握できるようにします。
5. 最新のトレンドと展望
2024年以降、コンプライアンスの範囲はさらに拡大し、深度化が予想されます。特に、下記のトレンドへの対応が求められます。
(1) デジタルコンプライアンスへの注目
オンライン発注システムやドローン活用、IoT導入など、建設業界のデジタルシフトが進む中、サイバーセキュリティ、データ保護、電子契約関連の法規制が増えています。デジタルサービス法(DSA)など国際的な規範が登場し、コンプライアンスポリシーにもデジタル分野のガイドラインを組み込む必要があります。
(2) ESG要素の組み込み
環境・社会・ガバナンス(ESG)対応は大手企業だけでなく、中小企業にも求められるようになりました。労働環境改善、CO2排出削減、地域社会への貢献など、コンプライアンスポリシーにESG的視点を反映することで、ステークホルダーからの評価が高まります。
(3) AI倫理・新技術対応
AI活用による施工管理や資材発注最適化が進む中、データの恣意的な利用やアルゴリズム偏向への懸念が増しています。AI倫理に関する基本的方針をコンプライアンス枠組みに取り入れ、公平性・説明責任・透明性を確保します。
6. 実行計画の立案と継続的改善
コンプライアンスを定着させるためには、PDCA(計画・実行・確認・改善)サイクルが欠かせません。
- 計画(Plan): 現状分析、リスク評価、ポリシー草案作成
- 実行(Do): ポリシー承認・公表、研修実施、内部通報制度運用
- 確認(Check): 違反事例の発生状況や従業員アンケートによる実効性評価
- 改善(Act): フィードバックを反映し、ポリシー・研修手法・内部通報制度を改訂
この継続的な改善が、コンプライアンス文化を根付かせ、企業としての成熟度を高めます。
まとめ
中小建設企業が2024年以降に生き残り、飛躍するためには、コンプライアンスポリシーの策定と徹底した普及が不可欠です。経営理念との整合性をとり、具体的な行動指針を明確化することで、現場レベルでの実践が可能になります。さらに、トップのコミットメント、定期的な研修、分かりやすい資料、内部通報制度、海外進出時の現地対応、デジタルやESG、AI倫理の考慮など、多面的な対策が必要です。
コンプライアンスは、リスク回避にとどまらず、企業価値創造とブランド強化の源泉となり得ます。建設業経営者として、これを機会に自社のコンプライアンスポリシーを見直し、未来へ向けた基盤強化を図ってはいかがでしょうか。
参考サイト
コンプライアンスとは?遵守するための対策とは?聞くに聞けない経営用語を解説 RICOH
コンプライアンスマニュアルの作成方法 手順や作成例も解説 RISK EYES
グローバルコンプライアンスとは?グローバルコンプライアンスの重要性や課題、対応策などを解説 NTTデータグローバルソリューションズ
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