今回は、各社の通年を通した業績である有価証券報告書から数字を拾っていきます。財務分析は、各社いろいろされていると思いますが、以下の構成でまとめています。もちろん、関心のある箇所から読んで頂いても構いません!
分析の背景・前提
- スーパーゼネコン5社の分析を行っております。
- 投資家やマーケットからの評価として企業の時価総額も項目に加え、売上高・営業利益の前年比率も加えております。今後も必要な指標は追加していきます。
- 基本的に、時価総額の大きい企業から順にならべております。
建設業界の傾向
建設業の特徴
発注者に注文を受けてから生産が始まり、発注者が施主となる点に注意が必要です。近年は大手ゼネコンを中心として、「受注から造注へ」の流れも生じており建設業を営む企業の多くは、自ら建売住宅や分譲マンションなどを建設して販売することも多く宅地建物取引業(不動産業)の免許も必要になります。系列グループに不動産会社を有する企業が多いのも特徴です。
ビジネスモデル
建設業の基本的なビジネスモデルは受注型という点に留意する必要があります。即ち、デベロッパーや公官庁から案件をもらって工事を行い収益を上げるということです。しかし顧客の「新しく建物を建てたい!」というニーズがないと、そもそも稼げないビジネスモデルでもあるので、建設需要をいかに取り込んでいくかが事業成功のキーになります。
注意して分析する経営指標
建設業で重視される経営指標・財務指標には売上総利益率・売上高成長率・営業利益率・経常利益率・売上債権回転日数・仕入債務回転日数・棚卸資産回転日数・運転資本・損益分岐点売上高が挙げられます。
一般的な製造業と異なる点は、売上債権に売掛金に相当する、完成工事未収入金が含まれること、および支払債務には工事未払金が含まれる点に留意する必要がある点です。
建設のプロジェクトは長期にわたるので短期的な流動性を判断する流動比率や、自己資本の安全性を判断する自己資本比率も重要な指標になります。
建築設計の業界にいるとスーパーゼネコンは、組織設計が大きな存在感を持っているのですが、あらためて財務的に見てみると、ハウスメーカーの規模が非常に大きいことがわかります。売上高で見ると、スーゼネトップ・鹿島建設は、ハウスメーカートップ・大和ハウスの半分にも至りません。営業利益でみても、スーゼネの雄・竹中工務店は、今回取り上げたハウスメーカーのどの企業にも劣っています。
特に差が出ているのがROEであり、ゼネコンや組織事務所では平均10%となるところ、ハウスメーカーでは平均13%となっています。建築設計業界での存在感、すなわちデザイン性や技術力の高さなどとは裏腹に、財務的には規模でも効率でもハウスメーカーに軍配が上がっています。
※1:親会社株主に帰属する当期純利益
※2:他社は2023年3月期となるが、竹中工務店は2022年12月期の決算である。
日本の建設業界を牽引するスーパーゼネコン5社(鹿島建設、大成建設、大林組、清水建設、竹中工務店)の財務状況を分析することで、業界全体の動向や各社の戦略を理解することができます。本記事では、これら5社の財務データを基に、売上高、利益率、資産状況などの主要な指標を詳しく解説し、今後の展望について考察します。
鹿島
概要
鹿島建設はスーパーゼネコンの中でも特に国際的な展開を進めている企業であり、国内外で数多くの大型プロジェクトを手掛けています。
財務状況
- 時価総額: 844,792百万円
- PER: 6.88倍
- PBR: 0.73倍
- 売上高: 2,391,579百万円
- 営業利益: 123,526百万円
- 従業員数: 19,396人
- ROA: 4.04%
- ROE: 10.62%
鹿島建設は売上高、営業利益ともに安定しており、特に国際プロジェクトでの成長が見込まれます。
大成建設
概要
大成建設は、技術力と豊富な経験を持ち、都市再開発プロジェクトやインフラ整備に強みを持つ企業です。
財務状況
- 時価総額: 773,019百万円
- PER: 16.98倍
- PBR: 0.93倍
- 売上高: 1,642,712百万円
- 営業利益: 54,740百万円
- 従業員数: 14,466人
- ROA: 2.34%
- ROE: 5.68%
大成建設は、利益率の低下が見られるものの、堅実な財務基盤を維持しています。
大林組
概要
大林組は、都市再開発や大型インフラプロジェクトに強みを持ち、国内外で豊富な実績を誇ります。
財務状況
- 時価総額: 730,889百万円
- PER: 9.35倍
- PBR: 0.73倍
- 売上高: 1,983,888百万円
- 営業利益: 93,800百万円
- 従業員数: 15,876人
- ROA: 2.98%
- ROE: 7.79%
大林組は安定した売上高と利益率を誇り、特にインフラプロジェクトでの強みが際立っています。
清水建設
概要
清水建設は、環境に配慮した建設プロジェクトに注力しており、持続可能な建築技術の開発を推進しています。
財務状況
- 時価総額: 591,385百万円
- PER: 11.31倍
- PBR: 0.65倍
- 売上高: 1,933,814百万円
- 営業利益: 54,647百万円
- 従業員数: 19,869人
- ROA: 2.00%
- ROE: 5.75%
清水建設は環境関連プロジェクトに注力しているため、売上高は安定しているものの、利益率はやや低めです。
竹中工務店
概要
竹中工務店は、デザインと施工の一体化を推進し、高品質な建築物を提供する技術力が特徴です。
財務状況
- 時価総額: N/A
- PER: N/A
- PBR: N/A
- 売上高: 1,375,410百万円
- 営業利益: 28,333百万円
- 従業員数: 13,278人
- ROA: 1.74%
- ROE: 3.49%
竹中工務店はデータの一部が公開されていないものの、高品質な建築物の提供に注力しています。
財務データの比較と考察
売上高と利益率の比較
売上高では鹿島建設がトップを走り、営業利益でも安定した成長を見せています。大林組と清水建設も高い売上高を維持しており、それぞれの強みを生かしたプロジェクト展開が見られます。
財務健全性
自己資本比率では、竹中工務店が49.8%と最も高く、財務基盤の安定性が際立っています。大成建設も41.1%と高い水準を維持しています。
キャッシュフロー
営業キャッシュフローでは、大林組が228,456百万円と圧倒的な強さを見せています。一方、投資キャッシュフローでは各社ともマイナスとなっており、積極的な投資活動が行われていることがわかります。