上場建設会社大手四社の24年3月期決算がったでそろった大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設と23年12月に決算を迎えた竹中工務店を加え、大手5社の2023年度決算を分析する。今回は、各社の通年を通した業績である有価証券報告書から数字を拾っていきます。財務分析は、各社いろいろされていると思いますが、以下の構成でまとめています。もちろん、関心のある箇所から読んで頂いても構いません!
分析の背景・前提
- スーパーゼネコン5社の分析を行っております。
- 投資家やマーケットからの評価として企業の時価総額も項目に加え、売上高・営業利益の前年比率も加えております。今後も必要な指標は追加していきます。
- 基本的に、時価総額の大きい企業から順にならべております。
建設業界の傾向
2024年の建設業界の動向
大手五社の2023年度決算における建築売上高はいずれも一兆円を超えた。大林組と鹿島建設と竹中工務店の三社が増収を果たした。建築売上高が好調な一方利益面では苦戦が目立ち、大林組と清水建設と大成建設の三社が営業減益に沈んだ。まず清水建設は1961年の株式上場以来初となる営業赤字、しかも246億円の赤字と巨額だ。連結営業利益が前年比10.3%増の1362億円でトップだった鹿島建設とも大きなな差がついた。大手五社の建築の粗利益率は、 2019年度まで10%超で推移していたが、23年度はトップの鹿島建設でも9.2%だった。各社は、東京オリンピック後の厳しい競争環境で受注した低採算工事を抱えている。それらを消化するには、あと2、3年かかるため、利益率の改善は数年後になるとの見方が強い。
利益苦戦も強い売り手市場。
建築需要は底堅く、建築受注高は大成建設以外の四社が前期よりも数字を伸ばした。
建設業界は、人手不足、資材価格の高騰、インフレなどの影響を受けています。また、再開発プロジェクトやインフラ整備が進む中、各社の受注動向や業績にも変化が見られます。今期は建築の工事契約価格の上昇を色濃く反映している。建設資材の価格の高止まりや労務費の上昇、工期の長期化などで建築コストが増加している上に、建設会社が人手不足や採算重視を背景に選別受注を徹底した強い売り手市場が形成されている。
2024年4月からは、建設業に残業時間の上限規制が適用され、建設会社は建設現場の労働時間を削減しなければならない。今後、人手不足と共に売上高、受注高が縮小して行くような事態に陥らないように、中長期的に技術開発などによって生産能力を高めることで受注量、売上高を増やせるようにしていく必要がある。
建設業の特徴
建設業のビジネスモデルは、大型プロジェクトを中心に工事、土木、建築の各分野で展開されています。スーパーゼネコンは、国内外での大規模プロジェクトを多く手がけており、再開発やインフラ関連の事業が主力です。
発注者に注文を受けてから生産が始まり、発注者が施主となる点に注意が必要です。近年は大手ゼネコンを中心として、「受注から造注へ」の流れも生じており建設業を営む企業の多くは、自ら建売住宅や分譲マンションなどを建設して販売することも多く宅地建物取引業(不動産業)の免許も必要になります。系列グループに不動産会社を有する企業が多いのも特徴です。
ビジネスモデル
建設業の基本的なビジネスモデルは受注型という点に留意する必要があります。即ち、デベロッパーや公官庁から案件をもらって工事を行い収益を上げるということです。しかし顧客の「新しく建物を建てたい!」というニーズがないと、そもそも稼げないビジネスモデルでもあるので、建設需要をいかに取り込んでいくかが事業成功のキーになります。
注意して分析する経営指標
建設業で重視される経営指標・財務指標には売上総利益率・売上高成長率・営業利益率・経常利益率・売上債権回転日数・仕入債務回転日数・棚卸資産回転日数・運転資本・損益分岐点売上高が挙げられます。
一般的な製造業と異なる点は、売上債権に売掛金に相当する、完成工事未収入金が含まれること、および支払債務には工事未払金が含まれる点に留意する必要がある点です。
建設のプロジェクトは長期にわたるので短期的な流動性を判断する流動比率や、自己資本の安全性を判断する自己資本比率も重要な指標になります。
※1:親会社株主に帰属する当期純利益
※2:他社は2024年3月期となるが、竹中工務店は2023年12月期の決算である。
日本の建設業界を牽引するスーパーゼネコン5社(鹿島建設、大成建設、大林組、清水建設、竹中工務店)の財務状況を分析することで、業界全体の動向や各社の戦略を理解することができます。本記事では、これら5社の財務データを基に、売上高、利益率、資産状況などの主要な指標を詳しく解説し、今後の展望について考察します。
鹿島建設
概要
鹿島建設は、三期連続増収増益を達成。連結当期純利益は2022年度比2.9%増の1150億円、ROEは10.2%(中期経営計画最終年度の目標を達成した)。
連結建設受注高は国内、海外ともに増加し、過去最高の2兆9272億円。
配当を年90円に上方修正(四期連続増配、2022年度実績は年70円)。
財務状況
鹿島の2024年の売上高は26,651億円、営業利益は1,352億円です。前年からの増減率は売上高11.4%、営業利益は10.2%で、安定した成長を維持しています。
中期経営計画2021年から2023年に基づいて持続的な成長を向けた施策や投資を推進した結果、目標を超える利益を確保し、資本収益性についても目標のROE10%を上回っている。また、情報開示の改善や投資家市場との対話の充実等の効果もあり、市場における評価は高まりつつとある。
鹿島グループの株式株主資本コストは7から8%程度。
今後の取り組み
2020年からスタートする新たな中期経営計画(2024年~2026年)に掲げた成長戦略を実践し、グループ持続的な成長や事業活動を通じた社会や顧客への貢献を目指すとともに、成長投資と株主還元のバランスを考慮した財務戦略により企業価値市場評価の更なる向上を図る。
事業別の概況
海外関係会社
建設受注高は。米国を中心に複数の大方工事を受注したことなどにより、2020年度の5890億円。大きく上回り9905億円となった。
売上高は米国や大洋州における工事の順調な進捗を主因に増収となり8597億円となった。
当期純利益は開発事業の売却益減少を主因に2022年度を下回り164億円となった。
国内主要工事
2023年の受注工事
大型半導体工場、北海道のRapidus(株)のRapidus IIM-1建設計画
空気圧制御機器大手SMCが総額1200億円を投資する研究開発拠点「柏の葉キャンパス新技術センター」(千葉県柏市)
2023年の完成工事
熊本県 JASMのJASM第一工場
鹿島建設 2024年3月期通期 決算説明会参考資料
鹿島建設 2023年度決算説明会資料
大成建設
概要
大成建設は、2023年度は、売上高17,650億円と昨年比1,223億円の増収となったものの、国内建築事業の収支回復の低迷、および複数の工事損失引当金の計上により、減益となった。
財務状況
大成建設の2024年の連結売上高は17,650億円、連結営業利益は265億円です。前年からの増減率は連結売上高7.4%、連結営業利益-51.5%でした。連結売上高は、手持工事の順調な進捗により増収となりましたが、各利益項目は、土木事業・開発事業等が増益となったものの、建築事業が大幅な減益となったことから、全体としては減益となりました。建築事業は、増収ではあったものの、工事損失引当金の計上等により利益率が低下したことにより、大幅な減益となりました。
連結営業利益が前年前期比51.6%減の264億円だった。建築の粗利益率は前期比4.6ポイント減のマイナス1.0%だった。東京都世田谷区の本庁舎建て替え工事で発生した工程遅延などで多額の工事損失引当金を計上していた。
当期の受注高は、対前期1,520億円増加の1兆9,624億円となりました。次期は、概ね当期並みの1兆9,100億円となる見通しです。
自己資本は前期から1,002億円増加して9,293億円となりましたが、自己資本比率は総資産が増加したことから▲5.1ポイント低下の36.0%となりました。
ROEは、当期は4.6%となり、次期は6.9%となる見通しです。
当期の営業活動によるキャッシュ・フローは、対前期で105億円増加の406億円となりました。投資活動を加えた当期のフリーキャッシュ・フローは、対前期で▲1,141億円減少し▲981億円となりました。
大林組
概要
大林組は、建築、土木、不動産事業を幅広く展開するゼネコンです。2024年も、国内外の大規模プロジェクトに注力しています。
財務状況
大林組の2024年の連結売上高は2兆3,251億円(前期比3,412億円増)、連結営業利益は793億円(前期比144億円減)です。前年からの増減率は連結売上高17.2%、連結営業利益-15.4%でした。連結売上高としては過去最高です。
•国内土木事業において、手持ち工事における追加・変更の獲得があったことや海外子会社の為替換算により計画より上振れによる。
•国内製造業を中心とした旺盛な需要に加え、建設資材価格の上昇分の追加を獲得したことなどあり、連結受注高として過去最高
事業別の概況
連結海外建設事業
2023年度業績
•完成工事高は、北米子会社を中心とした手持ち大型工事の進捗に加え、為替
の影響もあり、前年度から大幅増収
•営業利益は、建築で大型案件の進捗や設計変更獲得などがあった一方で、土
木ではケナイダン社で貸倒引当金を計上したため前年度並
受注高
- 2023年度は建築・土木とも前年度を上回る受注を確保
- 2024年度は、建築は前年度からの反動減を見込む一方、土木はMWH社の
連結子会社化により、増加を見込む
決算説明会プレゼンテーション資料(説明付) (2024年5月14日)
清水建設
概要
清水建設は、建築、土木、不動産事業を展開する大手ゼネコンです。2024年も、国内外でのプロジェクトを積極的に推進しています。
財務状況
清水建設の2024年の売上高は2兆55億円、営業利益は-246億円です。前年からの増減率は売上高は3.7%増加、営業利益は、-145%の減少となり、上場以来初の営業赤字となりました。
利益については、国内・海外の複数の大型建築工事において、工事採算の大幅な悪化に伴い工
事損失引当金を計上したことにより、完成工事総利益が減少したことなどから、営業利益は246億
円の損失(前期は546億円の利益)、経常利益は198億円の損失(前期は565億円の利益)となりま
した。
清水建設の営業赤字の主因は、受注時の見通しの甘さと考えられる。床レベルの精度不良などで工程遅延が発生した29階建てのオフィスビル「田町タワー」(東京都港区)を含め、複数の大型建築工事で工期が逼迫し、急速施工で労務費等が膨張し、利益を大幅に押し下げた。同社の建築の完成工事総利益率(粗利益率)は前年比7.0ポイント減の-2.9%に落ち込んだ。
受注高は、前期比21.3%増の1兆3858億円だった。主な受注案件としては、高さ385mの超高層ビル「Torch Tower」の受注がある。
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益335億円を計上しましたが、仕
入債務の減少などにより212億円の資金減少となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、イノベーション拠点の建設に伴う固定資産の取得など
により53億円の資金減少となりました
竹中工務店
概要
竹中工務店は、2023年12月の決算は、連結、単体ともに増収・増益の結果となった。
財務状況
竹中工務店の2023年の売上高が1兆6,124億円(前連結会計年度比17.2%増)、損益面では、営業利益が456億円(前連結会計年度比61.2%増)となりました。
竹中グループの三ヶ年事業計画における2024年12月期の目標については足元の状況と大型工事の動向など、事業環境の変化に踏まえ、売上高1兆4800億円、営業利益430億円、経常利益520億円、親会社株主に帰属する当期利益を 335億円としている。また、2024年12月期の業績予想は、売上高1兆5625億円、営業利益295億円、経常利益385億円、親会社株主に帰属する当期純利益を270億円としている。
財務データの比較と考察
売上高と利益率の比較
各社の売上高と営業利益率を比較すると、全体的に安定した成長を見せています。特に、利益率の高さが各社の競争力を示しています。
財務健全性
各社の自己資本比率やROEを比較すると、全体的に高い水準を維持しています。これにより、財務の健全性が保たれています。
キャッシュフロー
各社のキャッシュフローを比較すると、営業キャッシュフローが安定している一方で、投資キャッシュフローのマイナスが見られます。これは、積極的な投資活動を示しています。
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本記事では、スーパーゼネコン5社の最新の財務データを基に、各社の現状と将来を分析しました。建設業界の動向を把握し、今後の経営戦略を立てる上で、参考にしてください。